シャープで突き抜ける

何のきっかけか。
昨日、今日と中山美穂の『ただ泣きたくなるの』をずっと聴く。
あまりに美しい。
サビのところ、まさかという流れでシャープの旋律が伸びる。
半音違えてサビが哀愁を帯びながら、それでも生き生きと伸びて行くのが、なんとも言えず、
この清濁混在した世界であまりに美しく聴こえる。

両成敗

今さらながらだけれども、気になっていることを書いておく。
もはや薄れて来ている、ベッキーさんとゲスの極みの件について。
再度の ラインでのやりとりが公開されて、ワイドショーなどでは大きく否定に片寄った。
それ自体云々言うつもりはないけども、その報道の中で
新曲のタイトルが『両成敗』で大いにわいていた。
その時から思っていた。
それって特に今回の件とそんなにリンクしてなくね、と。
同じ報道の流れで、ゲスの極みのこの曲は皮肉にもバカ売れと述べてる。
なら、それで何で『両成敗』なのか。
どうも、ふんわりしたことで納得する風潮が時々あるように思う。
僕がなんか間違ってるのか、とも思う不思議な現象だ。

永遠の嘘

全く世代が違うが、
時々、吉田拓郎の『永遠の嘘をついてくれ』を聞く。
吉田拓郎の歌と中島みゆきの曲である本作は言うまでもなく、というより、自分のような素人が言うのも憚られるくらいの名曲だと思う。

そして、この曲を聞くたびに思う。
この上海の裏町で病んでいた男は、どうなったんだろうと。
文字通り、永遠の嘘をつき続けることができたのか。

僕がこの曲をずっと聞いていたとき、自分にとって一世一代ともなる勝負の時だった。ひよってた中で、いろいろなことを抱えて聞いていた。そして、まだ僕も旅の途中にいる。
だから、この歌があまりにずっしり来る。
この男はその矜持と、友の思いのため、永遠の嘘をつき続けられたんだろうか。
できればマジで思う、
最後の力で牙を剥いて、最後の力で嘘をついて、そして、永遠の嘘が嘘でなく、それを本当のことにできていて欲しい。
出会わなかった人などいないと、心の底から笑ってほしいと。

マジで思う。

電車の遅れ

最近、電車の遅延の理由のアナウンスで 結構聞く気がするのが、
「前の電車が遅れていたため、約~分遅れで運行しております。皆様にはご迷惑をおかけしますことをお詫び申上げます。」

理由になってねぇ。故に、全然お詫びを申し上げてねぇ。
電車が遅れることも、ままあるだろうし(結構頻度が高い気がする)、仕方ない場合もあると思う(内心、このやろうって思うこともある)。
だけれども、理由を述べてお詫びを申し上げるなら、やはり、その理由は少しでも明確に述べなければならないと思う。
理由にならない理由で、謝罪の体をとるのは、不誠実にすぎると思う。
そして、それで乗客がある程度でも溜飲を下げると思ってるなら、ご迷惑をかけた上になめている。
僕らは、それぞれの時間を生きている。
その人々の時間とそれに対する対価について真摯になってほしい。

電車内での難しい選択

電車内で今座ってるボックス席の向かいの席、どうも濡れているらしい。
僕が一人で電車に乗り込んだ際、一緒に席に着いた全く別のグループの一人が僕の向かいの席に座った途端、
「この席、濡れている!」って言ってグループで席を移っていった。
問題は、
次の駅でこの席に当然座ってくる乗客にそれを伝えるべきなのかってことになる。
僕はそこが濡れているかどうかはわからない。
それに僕に伝える義理はない。
だとしても。
ここですぐ目の前で不利益を被る人がいるかも知れないにも関わらず知らんぷりするのも後々後悔するしな。

知ってしまったからには、
しゃあねぇ!

親愛なる探偵たち②

第2位 エルキュール・ポワロ

アガサ・クリスティが産み出した探偵は、皆あまりに魅力的すぎる。

実はその探偵たちで一番好きなのは、ポワロではない。
それでも、ポワロをここで挙げたのは、僕の中で最も推理能力の上で突出しているのが彼だと思うからである。
と言っても、それは、クリスティの探偵の中で一番作品が多く、その分評価する機会が多いという要素はかなり大きい。
それでも、ランキング2位として評価できるのは、やはりクリスティの推理方法を最短でエレガントに、しかも信用できるほどの安定さをもって体現できるからだと思う。
つまり、能力がやはり天才的であると言わざるを得ない。

誤解を恐れず端的に言わせてもらうと、彼の捜査における推理方法、思考の進め方は、ホームズが事実や物証を観察し、そこからあり得べき真実を科学的に推し量っていくのとは異なり、
ポワロの場合は対象人物の心理とふるまいへの深い洞察によるものであると思う。
人物の会話や人となりから心理を洞察し、また、通常(一般論としての通常ではなく、ポワロが絶え間ない洞察を積み重ねて行った結果得られた経験値)そうは振る舞わないだろうという違和感を端緒に事件を解明していく。
このような人への関心と、その心理と行動への深い眼差しは、アガサ・クリスティが産み出した他の探偵たちにも通しじる。
ミス・マープルは、まさに自分の住むセント・メアリー・ミード村の人々のことを常に興味を持ってその情報(うわさ)を収集しているし、困難に陥った恋人達のための探偵ハーレ・クインや人間観察を生き甲斐とする相方のサタースウェイト氏、そしてパーカー・パインなんかはまさに人生相談所を営んでいる。
このような人間という存在、また人生という物語に対して愛しみと、同時に客観視する姿勢が、アガサ・クリスティの物語に通底している。

しかし、その中でもポワロは少し異質である。
彼は、卓越した洞察力を持ち、その能力に絶対の自信を持つ。
その『灰色の小さい脳細胞』は自信を持つに値するものであるが、同時にキャラクターはコミカルである。
自分がイギリス人ではないことを誇っており、決して美形ではないおじさんで、 頭は卵形だし、口ひげへのこだわりは半端ないし、潔癖(というより、整えられていることへのこだわりが凄い。)だし
自分への注目と称賛をすっごい好む。
これらの特徴はポワロのチャーミングな面であるが、どこか他の探偵たちと比べるとクリスティの彼への記述は少し客観的であるような、突き放したような印象もある。
クリスティは当初からポワロ物語に嫌気をさしていたようだが、
このキャラやキャラというフィルターを通して描かれる物語がクリスティの性質や好みと少し解離しているところもあったのではないかと思う。

そして、最強であるはずのポワロは、ある物語で全く彼らしくない方法で、探偵として最悪の汚点を残すことになる。
明らかにクリスティが彼をみかぎった物語であるが、全く僕の解釈で言わせてもらうと、同時にこの物語でクリスティは彼女最高のトリックを彼に捧げているとも思っている。
これについては独立しに言及しなければいけないと思っているので、別の機会で書く。

なんにせよ、ポワロは探偵の能力として場合によってはホームズを上回っているほどだとも思う。ただ、もって回った言い方になるのは、ホームズが本気を出したとき、ポワロは敵わないとも思うし、そこにはどうしようもなく主観が入ってしまう。ここは僕にとってもセンシティブな問題である。
ただ、それほどポワロはずば抜けた探偵であり、親愛なる探偵である。

最後に、余談。
クリスティの産み出した探偵達の中で僕が一番好きなのは、ハーレ・クインだ。
クインが探偵としてこのランキングにないのは、彼は厳密には探偵ではないからだ。
彼が謎を解明するのではなく、てか彼は最初からすべての真実を把握しており、その謎を周囲の人々に解き明かす役割は相方のサタースウェイト氏であり、クインはサタースウェイト氏に真実への道案内をするだけである。
クインはクリスティの物語の中でポワロとは全く別の意味で、やはり最も異質な存在である。
ポワロが異質なのは、クリスティらしからぬキャラであり、そこにクリスティとの間の距離が見えてしまうという意味であるが、クインの場合は、そもそも人間なのか?というキャラなのである。
確かに、物語内の場には間違いなく存在しているが、実在感やリアルさが全くない、超然たる道化として描かれる。
厳密には道化ではなく、イタリアの即興喜劇の一キャラであり、イタリアとフランスではそれぞれアルレッキーノアルルカンと呼ばれる。

このハーレ・クインは生きているのか死んでいるのかわからないという神秘すぎる設定を持ちながら、追い詰められた恋人達の元にふっと現れ、サタースウェイト氏を優しく導いて、恋人達を助ける。
そしてまた静かに姿を消す。

しばしばアガサ・クリスティとミスマープル(このキャラも当然魅力的すぎる)を重ねる評価を少なからず目にする。
僕も特に異論はないが、物語世界を俯瞰する一つ高い次元に住み、謎を解明しようとするサタースウェイト氏にヒントを与えて真実への道を示し、悩む恋人に手を差しのべるハーレ・クインの方が、よりクリスティと重なるんじゃないかと僕は思っている。