電車内でのささやかでイビツな日常

僕は本当に電車の中で、またはホーム、駅前で不思議な出来事に遭遇する。
まずはその経験のなかで、そんなことあるか?って話を書く。以下の話は物語チックに書くけども、誓って何一つ脚色を加えていないし、盛ってもいない。マジでありのままの出来事なので、逆にオチもないことをご了承願いたい。

前の話しになるが、
夜10時手前くらい、電車に乗った。
その電車は自分が降りる駅まで3駅停車する(この情報はこれから、特に重要でない)もので、席がシンプルに並列に並ぶ構造の車両だった。
空いてる席に座りイヤホンをつけ本を読む。
途中の駅で人々が乗り込み、ちょうど全ての人が席に座れるくらいの密度になった。
そのまま電車は進み僕は音楽を聴きながら、膝の本に目を落としていた。
が、何か違和感を覚えて顔を上げる。
すぐ斜め前に吊革を持って立つ中年のサラリーマンがいた。
車両の構造から席が並列であるのと同様、吊革も席の頭上に並列に設置されており、おのずと吊革に捕まって立つサラリーマンは席の方を向いている。

席の混み具合は前述の通り全ての人が座れるくらいに埋まっており、だから、その車両内で立っているのは当該サラリーマンだけであったし、そのサラリーマンが座ろうと思えばそのための空きスペースはいくつかまだあった。
なのに、その中年サラリーマンだけは立っている。
そして座席との距離が異様に近く、下を凝視している。
ただ、違和感の正体はそれではなかった。
当該中年サラリーマン(以下、中サラと言う)は縦方向にスイングしているのだ。
僕の横には若い女性が座っていた。
つまり、その中サラは、僕の横の女性を上から凝視しながら電車の揺れに任せた風に身をくねらせ、自分の局部を女性の顔に向かってフワフワ近づけているのだった。
女性が顔を上げてもその視線をはずさず、ひたすらリズミカルに女性の顔に向かって局部をスイングさせている。
それに気づいたとき、僕は
「マジか、これ…」
と思った。
そして、さすがにこれはマズイだろとにわかに緊張が走り、とりあえず、何かあったときのためイヤホンを外して顔を上げ、中サラを見ていた。
相変わらず、中サラのスイングは続き、女性はもう敢えて見ないようにするためか、下を向いた。
しばらくして、電車が駅に止まった。
そこで中サラが移動したので、降りるのかと目で追ったが、中サラは少しは離れたドアに寄りかかり、そのままこちらをじっと見ている。

すると、先ほどまで中サラのスイング攻勢にあっていた女性が僕の方に顔を寄せ、小声で話しかけてきた。
「今の見てました?」
まさか話しかけられるとは思ってなかったが、自分にとっても初めての異常な事態だったし、気持ちの悪い行為にかなり腹が立っていた。
「はい、見てました。ちょっとあり得ないっすね。」
「やっぱり、そうですよね。まだ、あの人こっち見てますよね。」
「まだ見てますね。」
「私、降りる駅まで、まだしばらくあるんですけど、ちょっと怖いですね。」
「どこまで行かれるんですか?」
「~駅です。」
「そうなんですね。僕も~駅まで行くんで、このまま僕も注意しておきます。」
実は、この時、僕は良いカッコしていた。
本当はもうすぐ着く次の駅が家の最寄りだったので降りなければならなかったが、カッコつけて嘘をついた。
ただ、これは信じて頂きたいんだけども、下心とかは全くなく、このままほっといて電車を降りるなど出来なかっただけで。
個人的には、弱った女性に漬け込むとかはゲスの所業だと思っている。
「君が涙のときには僕はポプラの枝になる
孤独な人に漬け込むようなことは
言えなくて」
(中島みゆき『空と君のあいだに』 より)
を地で行こうとしてるような硬派気取り、ゆえに、女性関係は全く華々しくない(それだけが原因じゃない)。
話しが逸れた。
そしてそのまま電車は進み、僕らは前を見ながら、時々「まだ見てますか?」「まだ見てますね。」とやり取りしながら無事、女性の降りるべき駅に着く。
一緒に電車を降りたが、中サラは人混みに隠れ、もう見えなくなった。
一応用心のため、人がはけるまで待ってみたが、中サラはそのまま電車に残ったのか、見通しの良くなったホームに完全に姿はなかった。
そして、安心して二人で階段を登り、連絡通路まで進んだ。
女性はそのまま別のホームで電車に乗り換えるとのことだったので、連絡通路で別れる。
女性は去り際に「今日は本当にありがとうございました」と深々と頭を下げていたが、顔を上げた時の笑顔はとても美しかった(はい、カッコつけてます。)。
女性が去ってしまうまで待って(今から僕はさっきとは逆方向の電車に乗って戻らなければならず、それを見られてしまうと嘘ついたことがバレるので)、家路についた。

ここまでで、めっちゃ長くなってしまった。
実は、この日の非日常的出来事は、これでは終わらない。
だからこそ、冒頭に書いたように、この日は特に異常だったのだ。
この後の出来事については
To be continued…