【電車】奇妙な符号的連続性を示す世界②

続き)
電車が動き出した。
位置確認をしておくと、
僕の左には先ほどのしょうもないイチャモメをしてた女性がいて、右には二十代中盤から後半の女性が座っている。

その女性は、結婚式かパーティーの帰り(手荷物が少なかったからおそらく後者かな)なのか、黒いドレスに華やかな装いをしている。
僕の前には4、5人の女性のグループが立っている。

電車が動きだして、しばらくしたときだった。
右の礼装女性がガッツリ僕の肩に寄りかかってきた。
これまで、電車で男性が肩に寄りかかってきたことはあったけど、自分としてはそれは特に何の問題もないことだった。
ノートパソコンで何か作業してるとか、何か書いてるとか以外は、特に自分の肩で隣の人が休むことは全然気にしない。別にデメリットもないので、宿り木として自分の肩を使ってくれて良い。めっちゃ匂う人とかなら別だけども。

今回は、女性だった。
しかも、それがただ肩に寄りかかられた程度ではなかった。
どれだけかっていうと、
女性の頭が僕のアゴとほっぺたにくっついていて、女性は全く力を抜いて寄りかかってきてるので、女性の頭と顔を僕の肩と胸と腕で包みこんでる形だった。
完全に『しなだれかかる』状態を思い浮かべてくれたら、たぶんそれが描写として近い。

ただ、やぶさかではなかった。
にしても、別に前述のように肩を貸すことは全く問題ないんだけど、このままの状態を続けると客観的には喜んでこれを受け入れてるみたいやし、
かといって、頭をグイって押すのも 気が引けるしなぁ。
そんな風に迷った末、右に寄りかかられているので、左手を伸ばし、女性の反対側の肩をトントンと叩いて起こそうとした。
起きない。
また、トントンとしたが、やはり起きない。
少し時間をおいて、またトントンしたが起きない。
それで、三回連続 トントンをした。
それでも、全く動かない。
そこで、にわかに緊張が走った。
この女性の異常な寄りかかりは、本当に何か女性に異常が起きてるのではないかと。
それで女性の肩を揺すってみた。
が、それでも全く反応がない。
冷や汗が出てきた。
肩を叩いたり揺すっても全く反応がない。
ただ、これ以上女性の身体に触って異常を確認をすることははばかられた(前回も書いた、弱った人に漬け込む的、中島みゆきの『空と君のあいだ』的プライドっす。今回あんま関係ないか。)し、
かといって、本当にこの女性の何か身体機能が停止して倒れかかっている場合はこの事態を放置できない。

そこで、他の女性に、この女性の状態をはかってもらうべく、目の前に立っていた女性達に「すみません」と声をかけた。
すると、目の前の女性グループの人は慌てて胸の前で手をパタパタと振って
「大丈夫、全然気にしてませんから!」
と言った。
一瞬何のことか?と思ったが、
おそらくこの女性は僕と礼装女性がイチャイチャしてる、もしくは礼装女性が酔ってしまったのを僕が謝っている
と勘違いしてる、と思いあたった。
そこで、
「さっきからこの女性に全く反応がなくて。確認してもらえますか?僕は男なので。」
とお願いした。

すると
「え?この人はあなたのお連れさんじゃないんですか?」と女性達が真剣な顔になり、礼装女性の脈を計り、顔を覗きこみ体調を丁寧に確認してくれた。
そして、
「脈もありますし、呼吸も顔色も大丈夫そうです。」 とのことだった。

ちょうどその時、礼装女性が枕の上でより心地良いポジションを探すように、頭をおき直したので、僕もはじめて安心した。
そして女性達が声をかけ続けてくれたおかげで、しばらくして、礼装女性も起きた。
姿勢を正し「すみませんでした。」と言った後は恥ずかしそうに下を向いていた。
ただ、またその後も寄りかかってきたけど。

そして、無事に自分の降りる駅について、女性達が「後は大丈夫だから」と力強く送り出してくれた。

めっちゃ長くなったが、昨日ブログに書いた久しぶりの電車でまた、今日も非日常的体験をしたその連続性がなかなか面白かった。
そして、これが僕にとって女性を肩でガッツリ休ませるはじめての経験になり、何かあったのかも知れない孤独な魂を安寧へいざなえたのではないかと、思う。
なので、この事件を勝手に『銀河鉄道の夜』事件と呼ぶ。
そう呼びたいので。